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「加工なしの自撮り」を送った、あの日
32歳になったばかりの僕にとって、マッチングアプリはもう生活の一部でした。周りの友人は次々と結婚し、可愛い子どもの話を聞くたびに、内心では焦りを感じていたんです。週末、一人で過ごす夜は特に、スマホの画面ばかりを眺めてはため息をつく日々でした。
そんな毎日の中、ある女性とのメッセージのやり取りが、僕の心を少しずつ温めていきました。
順調な滑り出しからの「写真交換」
彼女は僕よりも2歳年下で、プロフィール写真の笑顔がとても魅力的な方でした。共通の趣味が多く、メッセージはいつも弾みました。「こんなに話が合う人、久しぶりだな」と、正直、かなり期待していたんです。
数日後、メッセージの中で彼女から「写真交換しませんか?」と提案がありました。
その言葉に、僕は少しドキッとしました。アプリに載せている写真は、もちろん角度や光を工夫し、ほんの少し加工もしていました。実際の僕は、そこまで自分に自信があるわけではありません。
僕の心の声
「会うことになった時に、『イメージと違う』って思われるのは嫌だな…」
そう考えた僕は、ここで正直にいこうと決心しました。「ありのままの自分」を見てもらって、それでダメなら仕方ない、と。
勇気を振り絞った「加工なし」の選択
僕は、あえて加工なしの自撮りを送ることにしました。
風呂上がりの、何の変哲もない、本当に普通の顔。鏡で確認して、「うわ、これでいいのか…?」と一瞬ためらいましたが、一度決めたこと。自分に言い聞かせ、「えいやっ!」と送ったんです。
送信ボタンを押した瞬間は、なぜか達成感のような清々しい気持ちだったのを覚えています。でも、その直後から急に、猛烈な不安が押し寄せてきました。
POINT
この時、僕が送ったのは「加工なし」の、ごく普通の自撮り写真でした。
「これで本当に良かったのか?」「もっとマシな写真、あったんじゃないか?」なんて、色々な思いが頭の中を駆け巡ります。スマホを握りしめて、彼女からの返信を待ちました。一分一秒が、永遠のように感じられました。
無情な「既読スルー」と心折れる瞬間
そして、スマホの画面に表示されたのは、期待とは裏腹の、無情な「既読」の二文字でした。
返信はありません。数分経ち、10分経ち、30分経っても、彼女からのメッセージは届きませんでした。
「え…?なんで…?」
頭の中が真っ白になりました。これまであれだけ盛り上がっていた楽しいやり取りが、まるで嘘だったかのように感じられます。胸の奥がギュッと締め付けられるような、痛い感覚でした。
沈黙が語る「フェードアウト」の現実
その日以来、彼女からのメッセージは途絶えました。
僕からもう一度送る勇気もありません。何を言えばいいのか、何を伝えればいいのか、全く分からなかったからです。数日後、彼女のプロフィールを見ても、更新された様子はありませんでした。
「ああ、やっぱり加工なしの僕なんて、ダメだったんだな」
そう思うと、本当に心が折れそうでした。一時期、アプリを開くことすら怖くなって、アンインストールしてしまおうかと考えたほどです。何が悪かったのか、どこがいけなかったのか、ぐるぐると考え続けました。
この経験から僕が学んだこと
もちろん、たった一枚の写真が全てを決定するわけではないと、頭では理解しています。色々な事情があったのかもしれません。でも、あの時の僕には、それが全てのように思えてしまったんです。自分のありのままを受け入れてもらえない現実に、深く傷つきました。
この経験は、決してすべての人に当てはまるわけではありません。
加工なしの写真を送ることで、むしろ良い関係を築ける人もいるでしょう。正直な姿を見せることで、より深く繋がれることもあるはずです。
ただ、僕にとっては、少しばかり苦い、しかし大切な学びとなりました。自分を偽らずにいることの難しさ、そしてそれでも、いつかはありのままの自分を受け入れてくれる人に出会いたいという気持ち。あの既読スルーは、そんなことを改めて考えさせてくれるきっかけになったのです。