「パパ、あっち行って!ママがいい!」
夜の寝室に、娘の鋭い泣き声が響き渡ります。
仕事から急いで帰ってきて、よかれと思って「今日はパパと寝ようね」と抱きしめた瞬間、娘は激しく暴れ出しました。僕の胸を小さな手で叩き、全力で拒絶するのです。僕の心は、まるで冷たい水を浴びせられたように冷え切っていきました。「どうして僕じゃダメなんだろう…」と、暗闇の中で天井を見つめるだけの毎日でした。
目次
「パパ、あっち行って!」暗闇の寝室に響く、娘の泣き声
あの頃の僕は、毎晩のように絶望していました。当時、娘は3歳。とにかく何から何まで「ママじゃないと絶対に嫌!」という、超がつくほどのママっ子だったのです。
僕:「おいで、パパがお布団トントンしてあげるよ」
娘:「嫌だー!パパあっち行って!ママがいいのー!」
娘の激しい泣き声を聞くたびに、僕のライフゲージはゼロになります。妻も仕事や家事で疲れ切っているのに、結局は妻が添い寝を交代することになります。妻の申し訳なさそうな顔と、娘の拒絶する顔。その両方を見るのが、本当に苦しくてたまりませんでした。
自分を否定されたような、やりきれない夜
「昼間はあんなに仲良く遊んでいたのに、どうして夜になると急に嫌われるんだろう…」
夜中に一人でリビングでお酒を飲みながら、そんなことばかり考えていました。仕事の疲れも取れず、心には常にモヤモヤとした霧がかかっているようでした。まるで、父親としての存在をすべて否定されたような気持ちになっていたのです。
少しずつ距離を縮めた「1ヶ月の作戦」
「このままじゃ、妻も倒れてしまうし、僕も娘と心が離れてしまう。」
そう危機感を持った僕は、これまでの「強引に寝かしつけようとするやり方」を一度すべて捨てることにしました。焦って無理やり抱っこするのをやめて、まずは娘の安心できる「ママの隣」という特等席を邪魔しないことから始めました。
焦るのをやめて、ママの後ろ姿を追いかける
最初の1週間は、とにかく寝かしつけの空間に「ただ居させてもらう」ことに徹しました。パパが寝かしつけるのではなく、ママが寝かしつける横で、僕も一緒に横になって静かに息をしているだけです。
「パパ、こっち見ないで」と言われたら、「わかったよ、パパはあっち向いてるね」と優しく言って、静かに背中を向けました。心の中では涙がボロボロ流れていましたが、ここで怒ったり悲しんだりしては、娘に余計なプレッシャーを与えてしまいます。「僕は敵じゃないよ、ただここにいるよ」というメッセージを背中で伝え続けました。
「パパの絵本、面白いかも」小さな変化の瞬間
2週間が経った頃、小さなチャンスが訪れました。娘が「ママ、この絵本読んで」と持ってきたとき、妻がわざとらしく言いました。「ママ、ちょっとお喉が痛いから、パパに読んでもらってもいい?」と。
娘は少し不満そうな顔をしましたが、大好きな絵本を読んでほしい気持ちが勝ったようです。僕はチャンスを逃すまいと、感情をたっぷり込めて絵本を読みました。娘のお気に入りのキャラクターの声を真似すると、娘の口元がほんの少しだけ緩んだのです。
娘:「パパ、その声おもしろい。もういっかい!」
僕:「(やった…!心の中でガッツポーズ)」
この日から、寝る前の絵本タイムだけは、僕が担当させてもらえるようになりました。でも、読み終わるとやっぱり「じゃあママ、トントンして」と言われます。それでも、僕にとっては大きな、大きな一歩でした。
ついに訪れた「パパ、トントンして」の夜
作戦を始めてちょうど4週間が経ったある日、ついにその時が来ました。その日は、妻が体調を崩して熱を出し、別室で寝込んでしまったのです。寝室には、僕と娘の二人きり。
「またギャン泣きされるかもしれない…」と、僕の心臓はバクバクと音を立てていました。案の定、娘は布団に入ると「ママは?ママがいい…」と泣き出しそうになりました。
僕は落ち着いて、娘の目線に合わせて優しく言いました。
「ママはお熱が出て、今おそらのパワーをためて休んでるんだよ。パパ、ママの代わりに全力でトントンするから、今日だけパパにトントンさせてくれる?」
娘は不安そうな顔で僕を見つめました。そして、小さな声でこう言ったのです。
「…じゃあ、パパ、トントンして」
その言葉を聞いた瞬間、胸が熱くなり、涙が溢れそうになるのを必死でこらえました。僕は娘の小さな胸にそっと手を当てて、ママがいつもやっているのと同じ、ゆっくりとしたリズムでトントンを続けました。
5分、10分と経つうちに、娘の寝息がだんだんと深くなっていきます。そして、娘が僕の人差し指をぎゅっと握りしめたまま、すやすやと眠りにつきました。暗闇の中で、僕は娘の温かい手の温もりを感じながら、「ついに信頼してもらえたんだ…」と、静かに涙を流しました。
子供の拒絶は、パパが嫌いなのではなく「いつもと違うのが不安なだけ」。焦らず、無理に変えようとせず、ただ「安心できる存在」としてそばに居続けることが、信頼への一番の近道でした。
今では、日によっては「今日はパパと寝る!」と指名してくれるほどになりました。あの苦しかった1ヶ月があったからこそ、娘との絆はより深いものになったと確信しています。