「え、本当に? タカシが主任に?」
会社の給湯室で、偶然耳にしたその言葉。私の心臓が、ドクンと嫌な音を立てて波打ちました。
入社して5年。ずっと「一緒に頑張ろう」と支え合ってきた同期のタカシが、私を追い越して先に昇進することを知った瞬間でした。
そのときの私は、お祝いするどころか、激しい嫉妬と焦りで胸がいっぱいになってしまったのです。今回は、そんな私が自分だけの道を見つけるまでの、泥臭い葛藤のお話です。
「おめでとう」の裏で、心が黒く塗りつぶされた瞬間
給湯室で聞いた、同期の「昇進」のウワサ
「タカシ、次の改定で主任になるらしいよ」
同僚たちのヒソヒソ話が、私の耳に冷たく突き刺さりました。手元にあったマグカップが、カタカタと震えます。
「嘘だろ……。僕だって、毎日遅くまで残業して頑張ってきたのに」
頭の中が真っ白になり、足元がぐらつくような感覚。タカシとは、いつも同じくらいの成績で、仕事の悩みも愚痴も言い合える一番の親友でした。だからこそ、「置いていかれた」という衝撃は、耐え難いものだったのです。
お祝いの飲み会で、無理やり作った笑顔
数日後、タカシの昇進祝いの飲み会が開かれました。主役のタカシは、照れくさそうに笑いながら、みんなからビールを注がれています。
「タカシ、本当におめでとう! さすがだな!」
私は、顔の筋肉が引きつるのを必死にこらえながら、大きな声で言いました。でも、心の中は泥水のようにドロドロしていました。
なんでタカシだけ? 僕のほうが、あのプロジェクトで貢献したはずなのに。ずるい。認められたい。悔しい……。
ビールの味は全くせず、まるですり潰した砂を飲んでいるような、苦い夜でした。
焦りと嫉妬にまみれて、自分を見失う日々
「どうしてあいつが?」夜のオフィスで一人、ため息
それからの毎日、私の心はトゲだらけになりました。タカシが会議で発言するだけで、「またアピールしてるよ」と斜めから見てしまうのです。
誰もいない夜のオフィスで、パソコンの画面を見つめながら、ぽつりとつぶやきました。
「僕の何がダメなんだろう……」
焦れば焦るほど、自分の仕事が手につかなくなっていきました。タカシの背中ばかりを追いかけて、自分の足元が全く見えなくなっていたのです。
自分の仕事に集中できず、ミスを連発
「おい、この資料の数字、間違ってるぞ」
ある日、上司から厳しい声で注意されました。確認不足による、初歩的なミスでした。
「すみません……」とうつむく私の横を、タカシが忙しそうに通り過ぎていきます。その姿を見るだけで、また胸がキリキリと痛みました。
「他人と自分を比べること」にエネルギーを使い果たし、私は自分の仕事でお粗末な結果しか出せなくなっていました。このままでは、本当にダメになってしまう。深い暗闇の中に落ちていくような感覚でした。
自分だけの道を見つける。僕が気づいた大切なこと
比べるのをやめて、自分の「やりたいこと」に向き合う
ボロボロになった私は、ある休日に、スマホの電源を切って一人でカフェに入りました。ノートを開き、自分が本当にやりたいことは何か、ゆっくりと書き出してみたのです。
- タカシみたいに、みんなを引っ張るリーダーになりたかったのか?
- それとも、お客さんとじっくり向き合う仕事がしたかったのか?
書き進めるうちに、驚くべきことに気づきました。私は、リーダーシップを発揮するよりも、裏方として地道に企画を作る仕事が一番好きで、得意だったのです。
「そうか、僕はタカシになりたかったんじゃない。ただ、社内で認められたかっただけなんだ」
その事実に気づいた瞬間、すっと肩の荷が下りるのを感じました。
同期はライバルではなく、ただの「旅の仲間」だった
それからの私は、タカシの出世を意識するのをやめました。私は私の得意な「企画書の作成」に全力を注ぎ、彼にはできないサポートをしようと決めました。
ある日、タカシが新しいプロジェクトで悩んでいる姿を見て、自然と声をかけることができました。
「これ、僕が作ったリサーチ資料だけど、使ってよ」
タカシはパッと表情を明るくして、「うわ、助かる! ありがとう!」と嬉しそうに言ってくれました。
キャリアのゴールは、みんな違っていい。誰かが早く進んでいるように見えても、それはその人の道。私は、私のペースで、私の得意な道を進めばいいんだ。
今では、タカシの活躍を素直に応援できるようになりました。私たちは、敵同士ではなく、同じ会社という船に乗る大切な仲間なのだと、心から思えるようになったからです。