平日の昼下がり、有給休暇を取って、2歳になる息子と初めて近所の大きな公園へ出かけました。天気は抜けるような青空。絶好の公園日和のはずでした。しかし、公園の入り口に立った瞬間、僕の足はすくんでしまいました。
「うわ、ママさんたちばかりだ…」
広い敷地の中、カラフルなレジャーシートを広げたママ友グループがあちこちで楽しそうに談笑しています。聞こえてくるのは、華やかな笑い声と子供を呼ぶ声。その中に、男性は僕一人でした。ものすごい場違い感とアウェイ感が、一気に押し寄せてきました。
目次
ママたちの輪に入れない、平日の公園という「異世界」
視線が痛い…場違いな僕の、苦しい時間
息子は嬉しそうにトコトコと芝生を走り回っています。僕はそれを、少し離れた場所からオロオロと追いかけることしかできませんでした。
心の中の声:
「何これ、完全に浮いてるじゃん。早く家に帰りたい…」
ベンチに座るママさんたちの横を通り過ぎるとき、小さく「あ、こんにちは…」と会釈をしてみました。しかし、彼女たちの楽しそうな会話のテンポを遮るのが怖くて、すぐに目を逸らしてしまいました。心臓はバクバクと嫌な音を立てていました。
「あのパパ、何してるのかしら」と噂されているような気がして、被害妄想だと分かっていても、冷たい汗が背中を伝います。公園全体が、僕を拒絶しているような錯覚に陥っていました。
息子の小さな一歩が、分厚い壁を壊した瞬間
「お砂場セット、貸して!」
僕の焦りを知ってか知らずか、息子はお砂場へと突進していきました。そこには、同じくらいの年齢の女の子と、そのママが遊んでいました。女の子の手元には、男の子なら誰もが喜ぶ、大人気キャラクターの青いお砂場セットがありました。
息子はそのおもちゃに目を輝かせ、吸い寄せられるように近づいていきました。そして、驚くべきことに、その女の子のママに向かって小さな手を真っ直ぐに伸ばしたのです。
息子の言葉:
「かして!これ、かして!」
僕は血の気が引きました。「あ、ダメだよ!ごめんなさい!」と、慌てて息子を引き離そうと手を伸ばしました。しかし、僕の手が届くより早く、女の子のママさんが、ふんわりと柔らかい笑顔を僕たちに向けてくれたのです。
「いいよー!一緒に使おうね。はい、どうぞ!」
そのママさんは、快くシャベルを息子に手渡してくれました。息子は「じゅじゅー(ありがとう)」と嬉しそうに砂をすくい始めました。
「パパさん、お疲れ様です」の一言に救われて
孤独だった公園が、あたたかい場所に変わった
申し訳なさそうにペコペコと頭を下げる僕に、そのママさんはとても気さくに話しかけてくれました。
「男の子は本当に元気いっぱいですよね。うちの子も、すぐどこかに行っちゃうから毎日大変で」
「あ、はい…本当に、家の中でもずっと走り回っていて…」と僕がたどたどしく返すと、彼女は深く頷きながら、温かい言葉をかけてくれました。
「わかります!毎日本当にお疲れ様です。パパが平日に公園連れてきてくれるなんて、すごく素敵ですね」
その言葉を聞いた瞬間、僕の心の中で凍りついていた何かが、じんわりと溶けていくのを感じました。「あ、僕はここにいていいんだ。不審者でも、異分子でもない、ただの『子育てを頑張る親の一人』なんだ」と、心から救われた気がしたのです。
勝手に「ママたちの中に男が一人」と壁を作っていたのは、僕のほうでした。子供のピュアな一言が、大人のプライドや緊張という頑丈な壁を、いとも簡単に壊してくれたのです。
それから、ほんの数分ですが、子供たちの様子を見守りながら、イヤイヤ期の悩みや、おすすめのオムツのブランドについて、少しだけおしゃべりをしました。あんなに息苦しかった公園の風が、とても心地よく感じられました。
今でも公園へ行くときは少し緊張しますが、あの日の息子の「かして!」の声を思い出すと、一歩を踏み出す勇気をもらえます。平日の公園は、今では僕たち親子にとって、大好きな大切な居場所になっています。