「ウワァァァーーーッ!!」
車のドアを開けた瞬間、我が子の口から飛び出す全力の叫び声。せっかくの週末、家族みんなで楽しいドライブに出かけるはずなのに、僕の心はいつもどんよりと重い雲に覆われていました。
チャイルドシートに乗せようとすると、まるで全身の筋肉を硬直させるように体を弓なりに反らせて激しく抵抗する息子。シートベルトを締めるだけでも、まるで格闘技の試合のような大騒ぎです。
「もう、お出かけするのやめようか…」
妻と二人でため息をつき、車に乗る前からぐったりと疲れ果てていたあの頃。そんな僕たちが、ちょっとした「気づき」から笑顔のドライブを取り戻せるようになるまでの、あるお話です。
目次
ドライブのたびに響き渡る悲鳴と、僕の重いため息
それは、よく晴れた土曜日のことでした。久しぶりの大型ショッピングモールへ行こうと、準備万端で駐車場へ向かいました。
息子の機嫌も悪くない。「今日こそはスムーズに乗ってくれるかも!」そんな淡い期待は、車のドアを開けた瞬間に吹き飛びました。シートを見た瞬間、息子の表情が凍りつき、次の瞬間には火がついたように泣き叫び始めたのです。
「いやあああ!のらないぃぃ!」
抱っこ紐から降ろしてシートに座らせようとすると、ピンと体を伸ばして絶対に座ろうとしません。無理に曲げようとすると、さらに声が大きくなります。近所の人たちが「どうしたのかしら?」とこちらをチラチラと見る視線が、僕の心をさらに焦らせ、すり減らしていきました。
「お願いだから乗ってくれよ…」と心の中で祈りながら、半ば力ずくでベルトを固定する日々。車内には息子の泣き声が響き渡り、僕も妻も終始無言。楽しいはずのドライブは、いつしか苦痛でしかない修行の時間になっていました。
「何が嫌なんだろう?」と徹底的に子どもの目線になって見つめ直した日
そんな憂鬱な日々が続いていたある日、僕はふと思いました。自分があのチャイルドシートに座ったら、どんな気持ちになるだろう?と。
試しに、車が停まっている状態で、僕自身が後部座席に深く腰掛けて、息子のチャイルドシートをじっと眺めてみました。すると、驚くほど「寂しくて退屈な空間」がそこにあることに気づいたのです。
パパとママの頭の後ろしか見えない。大好きな絵本もおもちゃも、全部手が届かない場所にある。ただ、体を固いベルトで縛られて、暗い景色を眺めるだけ。
「そっか…これじゃあ、閉じ込められているみたいで怖いよね」
僕の大人の都合で「安全だから乗りなさい」と押し付けていただけだったんだ、と深く反省しました。息子の目線になって初めて、その孤独感と退屈さが痛いほど分かったのです。そこから、僕と妻の小さな作戦が始まりました。
おもちゃを「ここ」に置いてみたら、小さな変化が
まず僕たちが取り組んだのは、おもちゃの「配置」でした。それまでは、散らかるのが嫌で、車内のおもちゃはすべて助手席のシートポケットやカバンの中に片付けていました。
それをやめて、息子の「手の届くすぐ横のポケット」や、チャイルドシートの横に、息子が今一番お気に入りのおもちゃ(音の鳴る小さな絵本と、大好きな車のミニカー)をあらかじめセットしておくことにしたのです。
さらに、ただ置くのではなく、おもちゃたちに「ある役割」を持たせました。
「見てごらん、ウッディが『一緒にドライブ行こうぜ!』って待ってるよ!」
そう声をかけると、いつもならシートを嫌がって反り返る息子が、一瞬だけおもちゃに目を奪われて動きを止めたのです。その隙に、そっとお尻をシートに密着させることができました。
「乗せる」のではなく「一緒に乗り込む」儀式へ
もう一つの工夫は、「乗せ方」そのものを変えたことです。それまでは「早く乗せなきゃ」という焦りから、僕が息子を抱き抱えてクイックにシートに押し込んでいました。これが、息子にとっては「無理やり連行される恐怖」だったのかもしれません。
そこで、乗せる時のアプローチを「楽しいアトラクションの始まり」に変えてみました。
「よし、今日の運転手さん、助手席のドアを開けて、後ろの席にトントンって入ってくれるかな?」
僕が抱っこしながら、息子の足で車のボディを「トントン」と優しくキックさせます。「これから車に入るよ」という心の準備をさせるための儀式です。そして、チャイルドシートに座る瞬間、こう言いました。
「さあ、出発進行の『ガチャッ』のボタン、パパと一緒に押してくれる人ー!」
息子は少し涙目になりながらも、「…はーい」と小さな手を伸ばし、シートベルトの金具を僕と一緒に「ガチャッ」とハメてくれました。自分でロックしたという達成感が、彼の小さなプライドをくすぐったようでした。
泣き声が「パパ、出発!」に変わった、まぶしい週末
もちろん、最初から100点満点にうまくいったわけではありません。時にはぐずることもありましたが、このおもちゃの配置と「一緒に乗る儀式」を繰り返すうちに、少しずつ息子の抵抗は減っていきました。
そして、作戦を始めてから1ヶ月が経った頃、奇跡のような瞬間が訪れました。
車のドアを開けると、息子は自らチャイルドシートに手をかけ、「よいしょ、よいしょ」と登ろうとしたのです。そして、横に置いてあったミニカーをぎゅっと握りしめ、僕の顔を見てこう言いました。
「パパ、しゅっぱつしんこー!」
【パパの気づきメモ】
・大人の「早く乗せたい」という焦りは、子どもに100%伝染してしまう。
・子どもの手の届く世界に「お気に入り」があるだけで、車内は安心できるお部屋に変わる。
かつて、耳を突き刺すような泣き声と、重いため息で満ちていた我が家の車内。今では、息子の「パパ、あっちに赤い車がいるよ!」という元気な声と、お気に入りのおもちゃのメロディが優しく流れています。
あの時、力ずくで乗せるのをやめて、息子の小さな不安に寄り添ってみて、本当によかったと心から思っています。今週末も、僕たちは笑顔で「出発進行」のボタンを一緒に押して、新しい思い出を作りに出かけます。