毎晩、お風呂上がりの我が家には、「絶対にイヤだーーー!」という、耳をつんざくような絶叫が響き渡っていました。
相手は、3歳になったばかりの愛する息子。そして、僕の手には1本の子供用歯ブラシ。
ただ歯をきれいにしたいだけなのに、息子はまるで悪魔でも見るかのような目で僕をにらみつけ、全力で部屋の隅へと逃げ回ります。最後は僕が床に羽交い締めにして、大泣きする息子の口を無理やりこじ開けて磨く日々でした。
「どうしてこんなに嫌がるんだろう…」洗面台の鏡に映る自分の疲れ果てた顔を見て、僕は毎晩のようにため息をついていました。
「もう、力づくで磨くのはやめよう」
そう心に決めた夜から、僕たちの歯磨き革命が始まりました。
目次
毎晩の歯磨きは、まるでお互いの命を削る「戦い」でした
力づくで押さえつける日々に、心も体もボロボロに
当時の僕は、とにかく「虫歯にしてはいけない」というプレッシャーで頭がいっぱいでした。だからこそ、息子がどれだけ泣こうが喚こうが、きっちり3分間は磨き上げなければならないと自分に義務づけていたのです。
「お願いだから、ちょっとだけお口開けて!」と僕が懇願しても、息子は首をブンブンと横に振るばかり。
「いや!あけない!パパ、あっちいって!」
そう言ってポロポロと大粒の涙を流す息子を、最終的には僕の足で体を固定し、左手でおでこを押さえて、泣いて開いた口に素早くブラシを突っ込む。まるで拷問でもしているかのような罪悪感が、僕の胸を締め付けました。歯磨きが終わる頃には、息子は泣き疲れてぐったりし、僕もドッと冷や汗が吹き出てぐったり。こんなことを小学校に入るまで毎日続けるなんて、絶対に無理だ。僕は途方に暮れていました。
「力づく」を諦めて出会った、光る魔法の棒
「虫歯バイキンを倒せ!」即興で始まったお口の冒険ゲーム
ある日、何気なく立ち寄ったベビー用品店で、私の目に飛び込んできたものがありました。それが、「LEDライトでカラフルに光る歯ブラシ」でした。「これなら、少しは興味を持ってくれるかもしれない」と、最後の希望を託して購入しました。
その日の夜、いつものように逃げ腰の息子に、僕はあえて「歯磨きしよっか」とは言いませんでした。代わりに、部屋の電気を少し暗くして、その歯ブラシのスイッチを入れました。ピカピカと赤や青、緑に光るブラシを見て、息子の目が丸くなりました。
「なにそれ…?」と、恐る恐る近づいてくる息子。すかさず、僕は少し大げさな声で言いました。
「これはね、お口の奥に隠れている『虫歯バイキン』を見つける特別なライトなんだ。ほら、ここを照らすと、バイキンがまぶしくて逃げていくんだよ!」
息子の表情が、一瞬で「嫌がり」から「ワクワク」へと変わったのを私は見逃しませんでした。すかさず、ベッドに寝転がって「パパのお口も照らして!」と見本を見せると、息子は「僕もやりたい!」と、自らゴロンと仰向けに転がったのです。
逃げ回っていた息子が、みずからゴロンと横になるまで
そこからは、毎晩が「お口の中のバイキン退治ゲーム」になりました。
「あ!奥歯の裏に、お昼に食べたハンバーグのバイキンが隠れてるぞ!光線発射!」
「シュワシュワシュー!やっつけた!」と息子が声をあげます。光るブラシがお口の中を照らすたびに、息子は嬉しそうに目を輝かせ、自分から「次はこっちも照らして!」と、大きく口を開けてくれるようになったのです。あんなに力づくでこじ開けていた口が、息子の意思で、こんなにも大きく開くなんて。嬉しくて、少し涙が出そうになりました。
子供にとって歯磨きは「痛くて怖いもの」から「パパと遊ぶ楽しい冒険タイム」に変わった瞬間でした。親の『磨かなきゃ』という焦りを捨てて、子供の『おもしろそう!』に寄り添うことが、一番の近道だったのだと実感しています。
今でも、夜になると息子は自ら光る歯ブラシを持ってきて、「パパ、今日のバイキン退治は何分にする?」と聞いてきます。かつての地獄のような戦い時間は、今では僕たち親子にとって、1日の終わりを笑顔で締めくくる大切なスキンシップの時間に変わりました。