「もう、勘弁してくれ……」
夕方のスーパーで、僕は心の中で何度も叫んでいました。
目の前では、3歳になる息子が床にべったりと突っ伏して、手足をバタバタさせて大号泣しています。
床に響き渡る泣き声と、突き刺さる冷たい視線
その日は、仕事帰りに保育園へ息子を迎えに行き、そのまま夕飯の買い出しに寄っただけでした。
最初は機嫌よくカートに乗っていた息子ですが、お菓子コーナーが見えた瞬間、豹変したのです。
「これ!これかうのー!」と叫び、キャラクターもののラムネを握りしめました。
家にはまだお菓子があるし、ご飯前です。僕が「今日は買わないよ」と優しく言うと、一瞬で息子のスイッチが入ってしまいました。
カートからすり抜けて床に転がり、全身で怒りを表現し始めました。
スーパーの硬いリノリウムの床に、息子の泣き叫ぶ声が響き渡ります。
周りの買い物客の視線が、チクチクと僕の背中に突き刺さるのが分かりました。
「ちゃんと discipline (しつけ)してないのかしら」という幻聴まで聞こえてきそうです。
あまりの恥ずかしさと情けなさに、顔から火が出そうでした。
今すぐ息子を抱えて、この場から逃げ出したい。本気でそう思っていました。
「もう帰りたい…」限界だった僕の心
必死で「あとでおうちで食べよう?」「ほら、あっちにアンパンマンいるよ」と声をかけますが、全く耳に入りません。
息子の体を抱き起こそうとすると、タコのように体をくねらせて拒絶されます。
通行人の邪魔にならないよう、冷や汗を流しながら、這いつくばる息子を守るのが精一杯でした。
「どうして僕だけがこんな目に遭うんだろう……」と、涙が出そうになりました。
「2つの選択肢」を差し出してみた瞬間
そんなボロボロの僕の脳裏に、以前どこかで読んだかもしれない、ある方法がふと浮かびました。
ダメ元でいい。この状況を何とか変えたい一心で、僕は床にしゃがみ込み、息子の目線まで顔を下げました。
そして、怒鳴るのではなく、静かに、でもはっきりとこう言ってみたのです。
息子は、一瞬だけピクッと動きを止めました。でもまだ「いや!」と泣いています。
僕はあきらめずに、今度は目に見えるものを使って、もう一度「2つの選択肢」を作りました。
「お菓子はこれとこれ、どっちにする?」
「じゃあ、この10円の小さいラムネと、あっちのゼリー、どっちか1つだけなら買ってあげる。どっちにする?」
息子の涙に濡れた目が、僕の左右の手を交互に見つめました。
さっきまで「絶対に全部買う!」と怒り狂っていたのに、「自分で選ぶチャンス」を与えられたことで、頭のスイッチが切り替わったようでした。
ヒックヒックとしゃくり上げながらも、息子は小さな指で、僕の右手のラムネを指差しました。
「そっか、ラムネにするんだね。じゃあ、これを持ってレジに一緒に行こうか」と声をかけると、驚くほどすんなりと立ち上がってくれたのです。
笑顔でレジを通る我が子を見て
さっきまでの大嵐が嘘のように、息子は自分で選んだラムネを大事そうに両手で握りしめ、僕の隣をトコトコと歩いてレジへ向かいました。
レジのお姉さんに「どうぞ」と自分で商品を渡し、ピッと音が鳴ると、満面の笑みを浮かべていました。
その笑顔を見たとき、僕の胸の中にあったイライラや疲れは、すーっと消えていきました。
子どもを僕の思い通りに動かそうとするのではなく、「自分で選んだ」という満足感を作ってあげることが、お互い笑顔でいられる鍵だったんだと実感しました。
あんなに逃げ出したかったスーパーの帰り道、今では息子と「今日のラムネ、美味しそうだね」と手を繋いで、笑顔で歩けるようになりました。